南留別志73
荻生徂徠著『南留別志』73
一 にほふといふに、匂の字をかく事は、音通ずれば、誤りて芸と匂とかき違ひたる本のありしを、昔の博士どもが、珍しき事に思ひて、誤りつたへたるなるべし。弱(じゃく)と若(じゃく)と通ずれども、異国の書には、若の字はまれなり。宍(しし)は肉(しし)の古字なれ共、つねにはかゝぬ事なるに、此方にては、常用となれる類も思ひ合せぬ。
[解説]匂という字は国字で、日本でしか使われていない字。匀(イン、キン)という字を平安時代の中頃から匂という字に改め、においという意味の字であることを示すために中の「二」を「ニホヒ」の「ヒ」に変えたと言われる。徂徠の言う「誤りて芸と匂とかき違ひたる本」は不詳だが、「芸」と「匂」を書き違えるということがあり得るものなのか。意味も通じないと思うのだが。
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