南留別志67

荻生徂徠著『南留別志』67

一 題詠といふ事いできて、和歌はおとろへたり。


[解説]与えられた題をもとに創作するのが題詠で、和歌を含めた詩というものは、本来、現実の事物に対する感興を詠じたものとすれば、題詠作には心がこもっていないことになる。このような形式主義を激しく批判したのが正岡子規で、和歌については桂園派を中心に勢力をもっていた旧派歌人に対して書かれた歌論『歌よみに与ふる書』で古今集やこれに続くものを否定し、『万葉集』や源実朝(さねとも)の『金槐(きんかい)和歌集』を称揚、和歌の趣向の変化を求めて、理屈を排し、客観写生の重視を主張した。徂徠の考えが後世の子規の主張とどれほど一致するか、この短文だけでは決めかねるが、江戸時代の和歌界は題詠中心、歌会で互いに競い合い、批評し合うのが当たり前となっていたことからすれば、そういう和歌を指して「おとろへた」とするのは鋭い指摘といえよう。

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