南留別志64
荻生徂徠著『南留別志』64
一 伊勢物語は、うたの心を説きたる物なり。事のあるなしは、論ずべからず。抄物(しょうもの)のやうなる事して、歌の心をとかんは、うたをしらぬ人のする事なり。
[解説]伊勢物語は和歌それぞれの心を説いた作品であるから、歌は歌のまま味わい、決して注釈書、解説書のような細かな分析をしたり、この歌の背景は、作者の状況は、などと詮索・議論するのは歌を理解しない人のすることであると徂徠は批判する。歌に限らず、表現作品がいろいろあるように、受け手の鑑賞態度、捉え方も人それぞれ。「この作品の意図は、主題は」などと一つに決めつけて解説するのは、受け手の捉え方を狭めてしまうとともに、その解説が作者の思いと違ったものであった場合、解説を鵜呑みにしてしまった人たちを誤らせることにもなる。現代のように商業目的の作品では、明確な制作動機やこめられたメッセージがあるので、それを踏まえた解説も可能だが、どれほどの人が読むかもわからず、あまり読者を意識しないで書かれた古典は、特に詩の場合は一つに決めつけることはしないほうがよいだろう。
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