南留別志62

荻生徂徠著『南留別志』62

一 大峯(おおみね)の後鬼、前鬼は、紀氏の人なるべし。鈴木といへるも、紀氏なるべし。鈴は、すゞの下道のすゞなるべし。


[解説]修験道の霊峰である奈良県の大峰山麓に、前鬼(ぜんき)と後鬼(ごき)という鬼の夫婦が住み、修験道の開祖である役小角(えんのおづぬ)に従っていたとされる。徂徠は、この夫婦は紀氏の系譜に連なると推測している。実在が確認されておらず、ほとんど伝承上の人だが、鈴木という姓もまた紀氏であるとする。これらの理由が「鬼」「木」いずれも「き」であり、「紀」(き)氏と音が通じるからということだろう。漢学者らしい見方ではあるが、この理屈だと、「五鬼」「九鬼」をはじめ、「松木」「大木」「一木」「佐々木」など、無数にある「木」のつく姓はすべて「紀」氏から出たものとなる。さすがに、単なる思い付きのためか、短い文章に三度も「なるべし」を使っている。

絵は北斎画の役の小角と前鬼・後鬼。

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