南留別志57

荻生徂徠著『南留別志』57

一 つくば山(筑波山)といふは、常磐山といふ事なり。松をよめるも、常磐の緑なり。ひたちを常陸とかくも、此山(このやま)によれり。ひたちといふ名は、日高見(ひたかみ)の訛合(かごう)なり。「かみ」合ひて「き」なり。「き」訛して「ち」なり。東人(あずまびと)の語なり。国名に文字と訓との別あるは、大和、近江、常陸なり。


[解説]国名のうち、大和、近江、常陸はいずれも表記する文字と読みが一致していない。その理由を常陸を使って説明したもの。もちろん、これも徂徠の説。文字のままだと、大和は「だいわ・たいわ」、近江は「きんこう」となるが、古来より和訓で読まれている。国名の他にも同じような例をさがしてみると、いろいろあることに気づかれることだろう。有名なものでは春日(かすが)。これも字の通りなら「しゅんじつ」「はるひ」だが、そうは読まない。春の字では他に春原(すのはら)というのもある。「はるはら」という読みの人名、地名もあるが、人名では「すのはら」が多い。ちなみに、静岡県西部の遠江(とおとうみ)は近江と対を成す国名である。

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