南留別志56
荻生徂徠著『南留別志』56
一 武蔵国にのみ、牧(まき)の長を別当と云ふ事、令(りょう)に見ゆ。秩父庄司別当、長井斎藤別当は、当職なるべし。
[語釈]●牧 「ぼく」と読む場合は中国漢代の州の長官を指し、「まき」と読む場合は日本古代における飼育や繁殖のため牛や馬を放牧しておくための区域を指す(律令時代には公牧制度が整備され、兵部省管轄下の官牧(諸国牧・近都牧)や、左右馬寮管轄下で宮中が付属する御牧と呼ばれる牧があった)。徂徠は往々にして漢語の意味で使うことがあるので見極めが難しいものもあるが、ここでは後者の意。律令時代、官営の牧場が作られ(勅旨牧=ちょくしまき)、現地責任者として牧監(まきかん)置かれていたが、武蔵国のみ「別当」と称した。なお、「別当」は本来、律令制において本官を持つ者が他の官司の職務全体を統括・監督する地位に就いた時に補任(ぶにん)される地位のこと。
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