南留別志46

荻生徂徠著『南留別志』46

一 日本〔書〕紀の点は、後世よりつけたる多し。「申食国政大夫」を「けくにのまつりごとまうすまうちぎみ」とよめるは、古(いにしえ)なればとて、かくむつかしき官名はあらじ。大夫を「まうちぎみ」といふは、まつりごつ君といふ事なるを、かさねたらんはきゝにくかるべし。たゞ、「たいふ」とよみたるなるべし。太子を「みこ」、「すめみこ」などゝ訓ずれども、皇子、王子と差別なし。是はたゞ、「たいし」といひたるなるべし。神功(じんぐう)、応神より前にも、漢土の往来ありて、漢語も漢字も、とく(疾く=早く)に伝はりたりしなるべし。


[解説]日本書紀の点(読み)について、神功皇后や応神天皇以前にも既に中国から漢字や漢語は伝来していたはずであるから、「申食国政大夫」を「けくにのまつりごとまうすまうちぎみ」などと複雑な訓読みで読むのは却って不自然であり、「太子」も「みこ」「すめみこ」ではなく、「たいし」と漢語のままの読みをしていたはずだ、とする。江戸時代には国学の勃興とともに、古事記や日本書紀の神代の部分などはことさら和訓によるべきという主張がなされるようになったが、徂徠は日本の太古には中国の漢や唐の整備された官僚機構はなく、独自の官名もなかったのだから、漢語で表記されているものはそのまま漢語で読むべきであり、作者もそのように発音していたはずだとする。

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