南留別志45

荻生徂徠著『南留別志』45

一 くには郡なり。きみは君なり。みなみは南なり。にしは西なり。「み」と「に」は発声なり。日は火なり。月は土器なり。高坏(たかつき)、酒月(さかづき)もとなるべし。朝鮮にて熊浦を「こもかい」とよむ。くまは、こもの転ぜるなり。倭語(わご)のはじめは、漢語朝鮮語の転ぜる多かるべし。


[解説]訓読みの和語も、もとは漢語や朝鮮語が転化したものであろうとする。たとえば、「南」の「み」は発声のためあとから加えられたもので、「なん」が「みなんみ→みなみ」に、「西」の「に」も同様で、「しー」が「にしー→にし」に転じたものであろうとする。つまり、和語には純然たる南や西といった方角を指す言葉はなく、字は漢語として入り、読みも漢語ないし朝鮮語が付随して伝わり、和語化したものと徂徠は推測する。徂徠は中国語に堪能で、漢文も外国語なのだから、訓読すべきではなく、そのまま上から読むべきであると提唱し、弟子たちにもそのように指導した。いわゆる京都学派は吉川幸次郎氏などが同様の主義で漢文を中国語で教授した。一般向けの書物やエッセイを多くものし、これらは訓読で原文を紹介しているが、その中でも必要に応じて中国音を示している。

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