南留別志16

荻生徂徠著『南留別志』16

一 かしらにはおどろの雪をいただけどしもと見る身はひえにける、といふ歌は、笞杖(ちじょう)の罪の事をいへり。笞杖は、荊楚(けいそ・いばら)にてつくるゆゑ、おどろといへるなるべし。


[語釈]●しもと 「霜」と「笞(しもと)」の掛詞。 この歌は『宇治拾遺物語』にある。大隅守が悪事が度重なる郡司を呼び出したところ、白髪の老人だったので、さすがに哀れに感じて、「歌が上手ければ許してやろう」という意図で郡司に詠ませたもの。歌意は「頭に雪は積もった(すっかり白髪頭になった)が、そんな自分でも、霜を見ると体が寒々と冷えるように、「しもと(笞)」を見ると、恐ろしさにぞっと身がすくむことだ」 ●笞杖 律の刑のうち、笞刑と杖刑のこと。笞刑は「むち」で10ないし50回打つ。杖刑は笞刑より重く、60ないし100回打つ。ともに中国の律がもとで、罪人をうつ伏せに寝かせ、背から太ももにかけて打った。刑としては軽いものという規定だが、執行する者によっては手加減せず、死なせてしまうこともあった。日本では江戸時代に百敲きの刑があったが、これは割竹を使い、100回の場合は途中で医師により状態を確認(休憩の意味もある)したり、できるだけ急所を避けるなど配慮されたものだった。一回ずつ数える役人がいたが、打つ者が規定より多く打とうとすると、役人が罪人の上に覆いかぶさって阻止したということが『旧事諮問録』に見える。

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