南留別志1

南留別志 (なるべし)1

南留別志

荻 生 徂 徠 著   

一 名乗(なのり)に純をすみ、茂をもちとよめるは音なり。朝をともとよむ事は、朝廷もおほやけと同じ意なりとて、公の字を用ひたるなるべし。公は公共の意にて、ともとよめるなり。


[語釈]●名乗 公家や武家の男子が元服にあたり、幼名および通称にかえてつける実名(本名)のこと。父親或いは名付け親の名の一字(片名(かたな))をとってつけるのが通例。大石内蔵助の名乗が良雄(よしたか)というように訓読みが原則で、更に訓も常訓と異なるものが多かった。


[解説]人名についての読み方について、純を「すみ」、茂を「もち」と読むのは、それぞれ音読みを元にしているとする。純はジュン・シュン・トン・ドンといった音があり、このうち「シュン」が「すみ」に、茂はモ・ボウといった音があり、「モ」が「もち」となった。さらに、朝を「とも」と読むのは、朝廷は公けと同義であることから、公と共も同じであるため、公・共(とも)の読みを朝の字に含めたのであろう、とする。


[解題]

「政談」に続き荻生徂徠の雑記です。題して「南留別志」。本書は徂徠が読書の最中、あるいは何気ない時に思いついたりひらめいたことを書き付けたもので、これはこういう事であろう、という自分の見解を「~なるべし」として付け加えた短文集です。

 もともと自分用の手控えとして書き溜めたものですが、高弟の太宰春台がとても価値ある物として人を雇って筆写。その写本がやがて刊本となり、広まったものです。

 底本は吉川弘文館の日本随筆大成第二期第15巻本。原文は文語ですが、平安女流の作品などに比べればこのままでも理解しやすいこと、短文でまとめられているものを現代語訳すると冗長になりかねないため、そのまま紹介し、適宜注解を補うこととします。

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過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。