斉諧俗談199
斉諧俗談 199
〇人魚[にんぎょ]
伝承に言う、推古天皇の二十七年に、摂津の国堀江で網にある物がかかった。その形は子どものようで魚ではないが、人でもない。なんと名付けてよいのかわからないものだったという。また言う、西国の大洋の中に、頭は婦女に似て、その他は魚の体をしているものが時々現れた。色は浅黒く、鯉に似ている。尾は二つに分かれ、両の鰭(ひれ)に水かきがあって、人の手のようである。脚はない。急に風雨が強くなる時に現れ、漁師はそれが網にかかっても恐れをなして放してしまうという。
本草綱目(ほんぞうこうもく)に稽神録(けいしんろく)を引いて言う、謝中玉(しゃちゅうぎょく)という人があった。ある時、水辺を歩いていると、一人の婦人が水中より出たり入ったりするのが見えた。腰より下は魚であったと。また査道[さどう]という人が高麗へ使者として向かう途中、海の中に一人の婦人がいるのを見た。ひじの後ろに紅色をした鰭(ひれ)がついていたという。右の二物は、ともに魚人であるという。
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