斉諧俗談196

斉諧俗談 196

〇大鰒[おおあわび]

日本書紀に言う、允恭(いんぎょう)天皇が淡路の国で狩猟をされたが、獣一匹も得られなかった。そこで、占いをさせたところ、占師は「赤石の海底に真珠があり、これを島の神として祀れば獣を得ることができましょう」と奏上した。そこで、海人(あま)の男狭磯[おざし]という者が腰に縄を結び、海底にもぐってしばらくして上がってくると、「海底に大きな鰒があり、そこから光が出ています」と海底の様子を報告、息継ぎをしてまたもぐると、大きな鰒を持ったまま海上に浮かんだが、そこで息絶えてしまった。縄の長さから、海底まで六十尋(当時は1尋が6尺で、60尋は360尺=およそ108メートル)もあった。その鰒の腹を割いて真珠を取り出した。大きさは桃の実ほどもあった。さっそくこれを島の神として祀り、改めて狩りをしたところ、果たして多くの獣を仕留めることができたという。


[解説]古代の話は現実離れしたものが多いものですが、海人が60尋の深さまでもぐり、鰒は採ることができたものの、そのまま息絶えてしまったというのは素潜りだったからで、この部分は生々しい話です。一度目は確認のためにもぐり、二度目は天皇のためという気負いからなんとか採ることができたものの、海の上に出たところですでに窒息状態にあり、ほっとした気持ちもあって亡くなってしまったのでしょう。天皇や貴人の言いつけということは別にして、日常的にこういうことはよくあったのかもしれません。

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