斉諧俗談195

斉諧俗談 195

〇鬼鱟[たけぶんがに]

伝承に言う、元弘の乱の時、秦[はた]の武文[たけぶん]という人が、摂津の国兵庫の海に入水して死んでしまった。その怨霊が蟹となり、そのため兵庫および播磨の国明石の浦の蟹を、俗に武文蟹[たけぶんがに]と言う。その大きさは一尺にも及ぶ。はさみの色は赤く、白い紋がある。また、享禄四年、細川高国と三好が摂津の国で合戦をしたが、細川の家臣の島村某という者が、敵二人を脇に挟んだまま尼崎の水中に飛び込んで3人もろとも死んだ。このため、尼崎の浦の小鬼鱟[こたけぶんがに]を俗に島村蟹という。大きさは一、二寸ばかり。丸くて、腹に鬼の面のような模様がある。また、讃岐の国屋島の浦より出る蟹を平家蟹という。平家の一族が死んで怨霊となったものだという。また、加賀の国および越中の国より出るものを長田蟹[おさだがに]と言うことだが、その由来は不明である。

過去の出来事

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