斉諧俗談188
斉諧俗談 188
〇霊亀[れいき]
日本書紀に言う、天智帝の九年に、背に甲の字が書かれ、上は黄色、下は黒く、長さ六寸ほどの亀が見つかり、献上されたという。また、元明帝の和銅八年に、霊亀が献上された。長さ七寸、幅六寸、左の眼は白く、右の眼は赤く、頸(くび)に三台が描かれ、背には七星を負っていた。前脚(まえあし)に離(り)の卦(け)があり、後脚に一の爻(こう)がある。腹の下には赤白の二つの点があり、八の字が並んでいる。また、聖武天皇の天平元年に、別の亀が献上された。その背には、「天王貴平知百年」[てんおうきへいちひゃくねん]という文字があったという。また伝承に言う、清和天皇の貞観(じょうがん)十七年、肥後の国より白い亀が献上された。在原業平や群臣たちはこれを祝い奉った。しかし、天皇が言われることには、よい印が天より降るのは、為政者の盛徳に感応するからである。今、国に災いが多く、輝かしい運があるとはいえない。白亀は水府のお使いというが、いったい誰のために来られたというのか。恐らくこれは御仏の遊心より出たものであろう。どうして天の幸いを盗んで、我が世の栄えている証拠などと誇ることができようかとのたまわれ、ついに白亀をお受けなされなかったという。
[語釈]
三台 さんたい。三台星のこと。紫微星(しびせい)を囲んで守る上台・中台・下台の三つの星。三台。
七星 しちせい。北斗七星のこと。
爻 こう。易の卦(け)を組み立てる横の画。━を陽、 - -を陰とする。
水府 すいふ。海底にあって水神の住むという都。
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