斉諧俗談168
斉諧俗談 168
〇黒眚[しい]
元禄十四年、大和の国吉野郡の山中に獣が現れた。その形は狼に似て大きく、高さは四尺ばかり、長さは五尺ほど。白黒赤のまだら模様で、尾は牛蒡(ごぼう)の根のよう。鋭い顔で啄[くち]が尖り、ねずみのような牙が上下それぞれ二つあり、その他の歯は牛の如し。脚[すね]が太く、水かきがある。飛ぶように走り、もしこれに触れると、顔や手足、咽に切り傷ができる。もしこれに遭遇した時は、その場で地面に伏せれば獣はそのまま通り過ぎてゆく。弓や鉄炮を使っても仕留めることはできない。落し穴を掘ったところ、数十疋を捕獲できた。これ以降、この獣は出なくなった。この獣を俗に黒眚(しい)といい、また志於宇[しおう]ともいう。
震沢長語(しんたくちょうご)に言う、大明の成化十二年、京師に獣が現れた。その形は狸のようであり、また犬のようでもあり、風のように飛んだ。人の顔面を傷つけたり、手足を噛んだりした。一夜に数十疋も現れた。現れる時には必ず黒い気を帯びて来るため、俗に黒眚と名付けたという。
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