斉諧俗談150
斉諧俗談 150
〇霹靂木[へきれきぼく]
推古天皇の三十六年に、河辺の臣(おみ)という人を安芸の国へ遣わして船を建造させることとなり、現地で船に使える材木を探すことにした。ある所に一抱えもある木があったので、人夫に伐らせようとした。すると、様子を見ていた人が言うには、「これは名木です。古来、これを伐るとたちまち雷電が起こり、その人に災いをなすと恐れられています。そのために霹靂木と呼ばれているほど。伐ってはなりませぬ」と。しかし河辺の臣は「天下あまねく皇土である」と言うと、人夫に命じて伐らせた。その時、大雨とともに雷鳴がとどろいた。河辺の臣は剣を自分の額に当て、大声で「雷神、人夫を襲ってはならぬ。やるなら私をやれ」と叫ぶと、そのままの状態で天を仰いだ。しかし、霹靂は止み、臣も人夫も何事もなかった。そこで、予定どおりにその木で船を造ったことである。
[語釈]
霹靂 かみなり。また、かみなりが激しく鳴ること。古くは「かみとけ」「かみとき」「かんとけ」「かんとき」などと読んだ。
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