斉諧俗談126
斉諧俗談 126
〇処女塚[おとめづか]
摂津の国芦屋の里味沼村[さとわじぬまむら]に、処女塚[おとめづか]というものがある。伝承に言う、昔、芦屋の里に一人の女がいた。名を莵名負処女[うなひおとめ]という。二人の男が女を慕っていた。一人は当国の住人で、名は佐々多[ささた]、もう一人は和泉の国の住人で智努[ちぬ]。姿かたちから気持ちまで、優劣はほとんどなかった。女の父が言った、「そなたたち二人とも、これから生田川の水鳥を射て、よく命中した方を婿にしよう」と。そこで二人はさっそく競って水鳥を射たが、一人は鳥の頭を、もう一人は鳥の尾を射た。女は二人の射芸も優劣がないことに感激し、
住詫[すみわび]ぬ吾身(わがみ)なげてん津の国の生田の川は名のみ成(なり)けり
と歌を詠むと、川に身を投げて死んでしまった。それを見た二人の男ともに川に飛び込み、それぞれ女の手足を掴んだまま死んだ。三人の遺体が引き上げられ、埋葬された。二人の男の塚は女の塚の東西に並んであるという。
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