斉諧俗談120

斉諧俗談 120

〇鵜瀬淵[うのせのふち]

若狭の国遠敷郡[おにふごおり]の山の麓に、鵜瀬淵という淵がある。伝承に言う、鵜の鳥がこの淵へ入ると必ず死ぬと言われている。理由は定かではない。また、南都東大寺の二月堂に石の井戸がある。底はとても浅く、普段は一滴も水がない。が、毎年二月、寺僧がこの井戸に向かって加持祈祷して「若狭若狭」と呼ぶと、鵜瀬淵の水がしゅうしゅうと音を立てて湧くように出て来る。その水を汲んで墨をすり、それで符を記す。これは周知のことである。


この霊符の影を水に照らしてその水を飲めば、疫病、おこり及び鬼祟[もののたたり]がたちまち平癒する。東大寺の実忠和尚が良い夢を見たのがきっかけでこれを始めたということだ。


[語釈]

実忠和尚 726-? 奈良-平安時代前期の僧。神亀3年生まれ。華厳宗。東大寺の良弁(ろうべん)に師事し,西大寺や西隆寺の造営にたずさわる。師の没後,東大寺の造営,財政を担当し,修理別当となる。難波の海中から十一面観音像をえて,十一面悔過会(けかえ)(修二会(しゅにえ),お水取り)をはじめたと伝えられる。

過去の出来事

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。