斉諧俗談115

斉諧俗談 115

斉諧俗談 巻之四

〇県守淵[あがたもりのふち]

日本書紀に言う、仁徳天皇の六十七年に、備中の国川嶋河に大虬[おおみずち]が棲み、そこへ行った者は必ず毒にあたって死ぬということがあった。ここに一人の県守がいて、勇猛で力が強かった。県守は三つの瓢[ひさご=ひょうたん]を水に放り込んで言った。

「わしは今からお前を殺す。が、この瓢を水中に沈めたならば、殺すのはやめる。もし沈めることができなければお前を伐つからな」

虬は鹿に化けて瓢を沈めようとするが、瓢はいっこうに沈まない。必死に沈めようとするが、勢いよく水面に上がる。県守は剣を抜くと、鹿に化けた虬を斬った。他にもまだいるのではないかと思い、水中に潜ると、底の穴にたくさんいた。そこで、これらもことごとく斬り殺した。それから水は綺麗なものとなり、人々は県守の淵と名付けたという。


[語釈]

みずち(古訓は「みつち」)は、水と関係があるとみなされる竜類か伝説上の蛇類または水神の名前。 中国の竜である蛟竜〔こうりょう〕、虬竜(虬/虯; キュウ)、螭竜(螭; チ)、「蛟蝄(コウモウ)」などにあてられた訓じ名(日本語名)が「みずち」。

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