斉諧俗談114

斉諧俗談 114

〇古塚怪異[ふるつかのかいい]

程氏遺書に言う、波斯国[はしこく]で古い塚を暴くということがあった。しかし棺の中の遺体はすべて朽ちて消え、心臓だけが残っていた。石のように堅く、鋸で切り開いてみると、山水の形があり、青碧[あおみどり]色で絵のよう。その傍に一人の婦人があり、立派な身なりをして欄干によりかかる姿をしている。この婦人、とても山を好み、朝な夕な山のことばかり思っていた。その結果、心臓がこのようになったという。また、法循[ほうじゅん]という僧はケン舟三昧[けんしゅうさんまい]の法を行っていたが、入寂とともに火が消えたが、心臓だけは滅びず、五色の光を放った。中に仏像があり、高さ三寸ばかり、骨ではなく、石でもない。百体いずれもこの仏像があったという。

斉諧俗談 巻之三 終


[語釈]

波斯国 ペルシャ。イランの旧称。また、宇津保物語の主人公の一人である清原俊蔭が遣唐使として出航した際、嵐にあって漂着したという南洋諸島の一国をもいう。波斯。

ケン舟三昧 般舟三昧(はんじゅざんまい)。天台宗で、九〇日間を一期として、その間、飲食、大小便、乞食などのほかは堂内にあって、常に阿彌陀仏の像のまわりを歩きつつ、その名を唱え心に彌陀を念ずる三昧。常行。それによって諸仏が堂内に立ち並ぶのを見ることができるという。平安時代、浄土信仰の高まりにつれて重視されるようになった。原文は般をケン(「舟」の右に「犬」)に作る。

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