斉諧俗談112

斉諧俗談 112

〇鶯囀和歌[うぐいすわかをさえずる]

伝承に言う、孝謙天皇の御代、大和の国葛上郡高天寺[たかまでら]の僧に一人の愛児がいた。しかし、その子はにわかに死んでしまい、僧はとても泣き悲しんだ。それから年月を経るにつれて僧の思いも薄れていった。そんなある日、庭前の梅の木に一羽の鶯が来て止まると、奇妙な鳴き方をした。よく聞くと「初陽毎朝来不遭還本棲」(しょようまいちょうらいふそうかんほんせい)と唱えているようだ。そこでこれをやまと言葉に書きなおしてみると、

   初春のあした毎には来(きた)れども逢(あわ)でぞ帰るもとの棲(すみか)に

と三十一字の和歌となった。僧は、これは我が子が鶯となって来たのだと悟り、哀痛の気持ちが湧き起こってどうすることもできなかったということだ。

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