日用書体としての篆書使用例

日用書体としての篆書使用例

東隅書生


早学問の類である「童子早学問」の一冊。一八二一年刊行。


格言めかして勧学の文言を紹介する。手習い手本も兼ねて御家流の文字で摺られている。ルビつきなので高い教養が無くても読める、童子向け書物であることが文字の姿から知れる。


部分を掲載している。時折画も加えて興味を引くように作るのは初学者向けの本の常道。即売会で五百円が高いか安いか。


文政四年の刊行。「書物/地本 問屋」の「森屋治兵衛板」。

筆耕名も明らかになっている。「栄松斎」とある。初学者向けの本ではあるが冒頭には篆書も使われているのが知れる。書物の中に自然に利用される書体として篆書も日用書体のひとつとして受け入れられていた事実を確認する。まるで碑の篆額のような場所に書名として掲げられているのだ。必ずここに篆書を用いて作ろうとする意図が働き、このような姿に仕立てられていることを発見し気に留める必要があるだろう。漫然と見逃してはならない。書体の選択に意味がある。

(『東隅随筆』577号より転載)

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