斉諧俗談84

斉諧俗談 84

〇病忘人[わするるをやむひと]

五雑俎に言う、斉の国に物忘れを病む人がいた。行く時は止まることを忘れ、寝ている時は起きることを忘れる。その妻はとても心配して言うには、「艾子[がいし]という人は、治すのが難しい病を治してくださるとのこと。行って診てもらってください」と。夫は妻の言葉に従い、馬に乗り、弓矢を携えて出て行った。まだいくらも走っていない中、ふと便意を催したため、馬から下りて矢を地面に突き立て、馬を木に繋いで用を足した。足し終わり、ふと見ると矢が地面に突き刺さっている。自分で突き立てたことも忘れ、「なんと危ないことよ、流れ矢ではないか。どこから飛んできたのか」と言いながら右を見ると馬が繋いである。男はとても喜び、「危うく流れ矢に当たるところだったが、馬が手に入った。これはありがたい」と言って轡(くつわ)を取って帰ろうとすると、下に糞がある。「こんなところに犬の糞がある。こんなのを踏んで足が汚れてはたまらん」と言いながら馬に乗り、鞭打って元来た道を行くうちに我が家を忘れ、ある門の前で「ここが艾子どののお宅か」と思案していると、妻が夫の姿を見て、「自分の家も忘れたのですかっ」と罵った。夫は妻のことも忘れてしまい、「私はあなたのことを存じませんが、なぜ私のことをそうやって怒るのですか」と言ったという。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。