斉諧俗談67

斉諧俗談 67

〇人妖[にんよう]

五雑俎に言う、明(ミン)の花敬定(かけいてい)は戦で首を失ったにもかかわらずそのまま馬に乗ったままで、やがて馬から下りて手を洗った。そこに紗を洗っている女がいたが、首がない姿に驚き、「首はどうされたのですか」と聞いたとたん、花はその場に倒れてしまった。また淳安の潘翁(はんおう)という人は、首を斬られながらも生き永らえ、崔広宗(さいこうそう)という人は首がないのに飲食も情欲も普通の人と変わりなく、一人の男子をもうけてから五年目に死んだ。これらは人にして妖怪に近いものだという。


[語釈]

花敬定 唐の武将。原文では「大明」とあるが、本書の作者の記憶違いであろう。

潘翁 不詳。

崔広宗 三坂春編『老媼茶話』巻之壱「崔広宗」に詳しい話があるので、以下引用させて頂く。

 中国の開元年間のこと、清河の崔広宗という者が、法を犯して処刑された。

 首を刎ねられ、獄門にかけられたのだが、首から下は死んでいなかったので、家人が担いで家に連れ帰った。

 首のない崔広宗は、腹が減ると地面に「飢」という文字を指で書く。すると家人が食物をすりつぶして、首を刎ねられたあとの穴に入れる。腹がいっぱいになると「止」という文字を書く。

 家人に咎めるべきことがあれば、その次第を書いて戒めた。首がないのでしゃべれないだけである。

 三四年過ぎて、男児を一人もうけた。

 ある日、地面にこう書いた。

「明日、必ず死ぬであろう。葬礼の用意をせよ」

 はたして翌日、死んだのである。

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