斉諧俗談59

斉諧俗談 59

〇男変女[おとこおんなにへんず]

奇異雑談(きいぞうだん)に言う、下野(しもつけ)の国足利の学僧は、男根がとてもかゆくて、しきりに熱湯をかけたが、そのために縮んで女陰になり、造酒家に嫁いで二人の子を産んだ。また越後の国のある人は、十八歳にして出家をし、丹波の国大野原の会下に至った。三年経ってから京都へ行ったが、故郷を見たいと思い、近江の国島郡(しまごおり)枝村[えだむら]という所に泊った。折節長雨となり、三日間逗留した。ある夜、夢で自分が女になったのを見た。翌日、男根が引っ込んで女陰となったばかりか、声から容姿まで女そのものになっていた。その宿の主人と交わり、子を産んだ。その後十余年が過ぎた頃、師の僧がこの宿に泊まった。婦人となった男は今までの顛末を話すと、僧は「なんと奇怪なことよ」と驚いたという。

 按ずるに、奇異雑談は天文十年、中村豊前守の子息の著述である。この出来事は四十年以前にあったことという。時は明応年間のことであろう。

漢の哀帝の建平年間に、男子が女子に変化し、ある人に嫁いで一子を産んだ。また明の隆慶二年、スイ良(スイは上に「水」、下に「子」を重ねた字)という民があり、とても貧しくて妻を追い出して他人に雇われた。二月九日、激しい腹痛があり、四月になると陰嚢が体内に入り、女陰となった。翌月になると経血が始まり、女の姿かたちになった。時に二十八歳という。


[語釈]

奇異雑談 江戸初期の怪談集。奇異雑談集。1687年(貞享4)刊。6巻。成立は古く,1573年(天正1)ころか。序文によれば,江州佐々木氏に仕えた中村豊前守の子が編集したとあり,諸国の怪談30話,中国の剪灯新話(せんとうしんわ)等から4話を集めている。越中で殺された足軽の亡霊が旅人に会う話,僧がにわかに女となる話,頭上に口がある女の話など奇談が多い。

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