斉諧俗談37
斉諧俗談 37
〇勝尾寺観音[かつおでらのかんのん]
摂津の国豊島郡池田の庄の北東に勝尾寺という寺がある。本尊は釈妙観の作の千手観音。光仁天皇の宝亀八年の建立である。伝承に言う、一条院の御時、正暦(しょうりゃく)元年に、台州の周文徳、務州の場仁紹[じょうにんしょう]という商人二人が筑紫の大宰府に来て言うには、「百済国のさる后妃が、まだ年が若いのに白髪になってしまわれました。医術を尽くしたが効果がありませぬ。ある夜、后妃の夢に日本国の勝尾寺の観音を祈るがよいというお告げがあった。そこで願いを叶えるべく寺に参り、祈願したところ、果たして白髪が元の黒髪に戻った。よって、閼伽(あか)の器ならびに金鼓や金鐘などを我らに持たせて贈るものであります」と。
按ずるに、我が国一条院の御時の正暦元年は、中華[もろこし]の太宗淳化元年にあたる。
[語釈]
勝尾寺 大阪府箕面市にある高野山真言宗の寺院。山号は応頂山。西国三十三所の第二十三番札所。開山は開成、本尊は十一面千手観世音菩薩。創建は神亀四年(727)、善仲、善算の双子兄弟が草庵を構え修業されたことに始まる。
閼伽 仏前に備える水のこと。
0コメント