斉諧俗談15

斉諧俗談 15

〇妒女泉[うわなりゆ]

摂津の国有馬の温泉の近くに後妻湯[うわなりゆ]というのがある。人がこれに向かって罵倒すると、たちまち湯が湧き立ち上り、まるで怒ったようなさまである。そこでこれを後妻湯と名付けたという。また駿河の国江尻の近所に、媼が池[うばがいけ]というのがある。言い伝えによると、昔、一人の女があった。性格はとても頑固で嫉妬深かったが、文禄二年八月八日、この池に身を投げて死んでしまった、という。人がその池のそばで媼[うば]と呼ぶと、たちまち池が湧きかえる。さらに大声で叫ぶと、大きく湧き上がる。

寰宇記(かんうき)に言う、「安豊郡の咄泉[とつせん]は、浄戒寺の北にある。その泉のそばで大声で叫ぶと大きく湧き、小さい声で叫ぶと少し湧く。もし泉に向かって叱ったならば激しく湧く。世間ではこれを奇怪なこととして咄泉と名付けた」と。


[語釈]●寰宇記 太平寰宇記。北宋の楽史(がくし)の撰した地理書。 200巻。目録2巻。宋の太宗 (在位 976~997) のとき,北漢を平定して初めて天下統一ができたので,その領域および四夷について述べたもの。各州,県の沿革,産物,山川などが記述されている。前代の地誌その他の記事が引用されている点でも重要であり、不思議な伝承なども採録されている。

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