斉諧俗談4
斉諧俗談 4
〇星変人(ほしひとにへんず)
聖皇本紀[せいこうほんき]に言う、「敏達(びだつ)帝の九年、土師[はじ]の連[むらじ]八島[やしま]という人がいた。歌のうまさは人並外れていたほど。しかるに毎夜どこからともなく人が来ては、八島とともに歌を唄って遊んだ。その音程や声は常人ではない。八島は怪しみ、ある日、その人が帰る後を密かにつけて行くと、住吉の浜辺に着いた。暁の時分になると、その人は海の中に入り、姿が見えなくなった。聖徳太子がこの事を聞くと、「これは熒惑星[けいわくせい]である。この星はたくさん降っては人になり、好んで子どもらと交わっては謡歌を唄い、未然の事を唄うのである」と言われた。また一説に、八島の声は大きく、能や今様(いまよう)を唄う。熒惑星はこれらの歌に感応して唱和するという」。
我宿の甍(いらか)にすめる声はた(誰)そ
慥(たしか)に名乗れ四方(よも)の草ども 八 島
天(あま)の原南にすめる夏火星[なつひぼし]
豊里[とよさと]にと(問)へ四方の草ども 星
夏火星とは熒惑星のこと。豊里は聖徳太子の別号である。
宋史に言う、「永安二年、稚子[おさなご]らが大勢群がって遊ぶということがあった。やがて一人の子が来て、「私は人ではない、熒惑星だ」と言うと、たちまち空へ昇って行った」と。
[語釈]●聖皇本紀 せいこうほんぎ。通史の神代皇代大成経(先代旧事本紀) (じんだいこうだいたいせきょう(せんだいくじほんぎ))の巻35から38にある聖徳太子伝。本書は聖徳太子の編纂とされてきたが、研究により偽書とされている。 ●熒惑星 火星の異称。「けいこくせい」とも。聖徳太子伝暦(917頃か)上「太子侍側、奏曰、是熒惑星也」(たいしかたわらにじし、そうしていわく、これけいわくせいなり、と)。 ●宋史 そうし。中国の元代に編纂された正史(二十四史)の一つで、宋(北宋・南宋)を扱った紀伝体の史書。1345年完成。元のトクト(托克托・脱脱)の編。16本紀47巻、15志162巻、2表32巻、197列伝255巻の計496巻。正史の中で最も膨大である。
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