政談461

【荻生徂徠『政談』】461

(承前) さて、第三冊目に記した役儀の事と、人の使いようとは、これまた聖人の説いた奥義である。法をいくらきちんと立てたとしても、その法を正しく取り扱える人がいなければ、法は無益なものとなってしまう。

 四冊の大意は以上である。易経に「事は秘密にしなければ害が生じる」とあるように、御政務上の事はあからさまに人に教えるものではないゆえ、本書の内容は弟子に書かせず、私自身が老眼で悪筆なのも憚らず認めさせていただいた。上覧の後には、どうか焼却願いたい。

                            物部茂卿敬識

  もろこしのふみ(書)のかずかずみれどみれど

           いつらわが代のすがたならざる

  あめにとわんたよりをがもなくじ(公事)の道を

           た(誰)が代の為につたえをきぬと

政 談


[語釈]●物部茂卿 物部(もののべ)は徂徠の本姓。茂卿は実名としては「しげのり」と読み、号として使う場合は「もけい」と音読みさせた。「徂徠」の号は『詩経』「徂徠之松」に由来し、「茂卿」は「松が茂る」の意味で、実名と号は松で共通させている。徂徠は作品によく「物茂卿」(ぶつもけい)と署名したが、これは中国式に姓を一字にしたもので、「物徂徠」とも記した。それほど中国に傾倒したのは、中国が聖人の国であり、聖人の道が行われた国だからである。逸話として、同じ江戸府内でありながら少し西に転居しただけで「聖人の国に近づいた」と喜んだということである。

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