政談438

【荻生徂徠『政談』】438

 ●御蔵書籍の事

 総じて幕府所蔵の御書物は、儒者たちの希望に応じて貸し出すようにしたいものである。書籍は他の物と違い、平素から見知っておかなければ急の用事には役に立たない。いくら御蔵に詰め込んでも、それを見る人がなければ紙屑を入れてあるのと同じこと。むざむざ虫に食われて捨てるなど、ただただ惜しいことではないか。他の物、武具などは必要な時に取り出せばすぐ役に立つが、書物はそれとは違う。


[語釈]●御蔵書籍 幕府の書庫、紅葉山文庫のこと。書物奉行が管理。明治政府が引き継ぎ、内閣文庫に入れられた。蔵書は、家康の命で蒐集・書写された書物を基礎とし、のち大名らの寄贈や書物好きだった吉宗が中国に発注して取り寄せたものなどが収蔵されて充実した。将軍のための政務・故実・教養の参考図書を用意するのが本来の目的だが、次第に老中以下の幕臣や学者、大名らも利用できるようになった。


[解説]書物の死蔵、閲覧禁止は、どういう書物が収蔵され、どの書物にはどのようなことが書かれているか、どんな知恵や情報があるかもわからず、何か起きた時にその対処法を調べるとっても、どの書物に書かれているのかがわからず、宝の持ち腐れとなる。また、和本は紙魚(しみ)や死番虫(シバンムシ。今もこれにやられることが多い)の餌食となり、ネズミもよくかじるため、虫干しや薬剤による処置も必要だが、常に多くの人が出し入れしたり読むといったことがなによりの虫よけとなる。吉宗の時には積極的に貸し出しを行うようになり、誰がいつ、どの本を借りたかも記録するシステムが整った。この記録は今に残っており、とても興味深い史料である。なお、期日を守らず借りっぱなしが多かったのが将軍自身。将軍とて規則を守らなければならず、吉宗自身、期日が来たらその旨遠慮なく伝えてくれと命じた。それでも常にたくさん借りたことから、期日超過の本が後を絶たなかった。為政者は総じて書物好きが多く、また書物からいろんな知識を得なければ充分な政務など行えない。しかし、現首相は書物をほとんど読まず、書物に関するざっくばらんな発言もなければ、古本談義に花が咲くといったこともまったくない。話題といえばゴルフに会食、無用無益な外遊とそれによるバラマキ。最近は散歩と称して自分の姿を記者たちに撮影させているが、ここまであからさまに「バカ」と言われた歴代首相はおらず、恥とすべきである。

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