政談437

【荻生徂徠『政談』】437

(承前) 「問うに落ちずして、語るに落ちる」という言葉がある。何気ない所から事情がわかり、それに対して役立つことが多くあるものである。意味もなく、なんの利益もないようなことに実は役立つことが多い。古は聖君・賢主には皆朋友があり、徳ある人を家来扱いすることがなかった。これを布衣の交りと言い、身分や地位に関わらず交際したものであり、これが古の道であった。学者らに政治について御尋ねされるのも、その仲間らと議論をさせて、その横で聞いているだけで得る所が多いからである。総じて上に対して物を言うのは差し支えがあってやりにくいものだが、仲間での議論という形であれば、遠慮なくお互いに思っていることを言うものである。


[語釈]●布衣の交 ふいのまじわり。『史記』廉頗(れんぱ)藺相如(りんしょうじょ)列伝より。身分・貧富の違いを問題にしない交際。また、貧賤の者どうしの交際。ここでは前者。布衣は布で作った衣服のことで一般庶民の着物。そこから無位無官の人のことを言う。なお、「ほい」と読む場合は我が国で六位以下の者が着た無紋の狩衣(かりぎぬ)。また江戸時代の武士の略式礼服のこと。布衣は幕府の認可がなければ着用できなかった。

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