政談436
【荻生徂徠『政談』】436
(承前) 下情に疎いのは貴人の通弊であり、欠点である。願わくは、養老宴などと名付けて、六、七十歳以上の人を御旗本の隠居・儒者・医者・僧侶・町人・百姓の中から選び、二の丸などへ月に一、二度も招いて御料理や餅・酒・菓子などでもてなし、物に通じた者を一人二人なりとも座の主人にして、御城下の様子、遠国の様子など、とりとめもないことでも構わず話を聞くような場を設けたいものである。
[解説]身分や属性に関係なく、年配の人たちを江戸城の二の丸(将軍の別邸)に月に一、二度招き、酒食でもてなしながらざっくばらんな話をしてもらうことで、世の中の人々が何を思い、世間の様子はどうかを知る機会を作ってはどうかという提案。百姓まで将軍の居宅に招くなど考えられないことだが、人の上に立つ者は分け隔てなく人と接し、好き嫌いをせず人々の悩みや訴えを聞く、それでこそ聖人の道にかなうことであるということ。さすがに吉宗が直接農民たちと対面したり酒食を共にすることはなかったが、目安箱によって声を聞き、無料で診療を行う小石川養生所を設立、人々のいこいの場として桜の名所となった飛鳥山を造営させるなど、常に市民に目を向けた政治を心掛けた。吉宗がこういう器量だったからこそ、徂徠も憚ることなく期待を込めてあれこれ提案したわけである。現首相は取り巻きとしか交わらないが、なんと狭量なことか。
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