政談433
【荻生徂徠『政談』】433
(承前) 道心者もまた、鰥寡孤独に入る。都でも田舎でも、道心者に対して庶民は鉢に米や銭を喜捨する。なぜ正式な僧でもないあのような者に喜捨するのかと尋ねると、必ずしも仏法に対する信仰心からではなく、孤独な人だからと憐れんで恵んでいるようである。下々でさえ憐憫の情があるのに、上の人たちが何もしないのはいかなることか。歴代将軍の忌日など、増上寺の裏門や東叡山の裏門で、公儀の役人が孤独な人たちに一人米一升ずつなりとも喜捨すべきである。
[語釈]●道心者 仏門に帰依し、僧衣をまとうものの、寺には入らない人。また、乞食坊主のこと。 ●増上寺の裏門や東叡山の裏門 増上寺は秀忠・家宣・家継の墓所。東叡山寛永寺は家光・家綱・綱吉の墓所。
0コメント