政談423

【荻生徂徠『政談』】423

(承前) 吉利支丹宗門の書籍を読む人がいないため、その教えがどのようなものかを知る人もいない。儒道・仏道・神道も、悪意を以て教えたならば吉利支丹のようになるかもしれない。そのようなわけで、幕府所蔵の吉利支丹の書籍を儒者たちに見せて、邪宗についてよく調べさせたいものである。


[解説]3代家光の時に始まった「鎖国」により、洋書や漢訳の洋書の輸入や所持を禁止した。その最大の理由が、これによりキリシタン=キリスト教の教えが入ってくる恐れがあるため。宣教師など人の流入は防ぐことができても、書物の中に書かれていることは防ぎきれない。たとえば、輸入された歴史の書物の中でキリスト教について書かれた一章があり、これを発見した幕府は、その部分だけ切り取りをさせたり墨を塗って消すのは面倒であり、ある一部分でキリスト教の教えの本質やそれがいかに素晴らしいかをそれとなく記述した書物が無数にあるかもしれないと危機感を持ち、洋書すべてを禁書とした。しかし、その後も幕府内では限られた情報ながら外国事情の調査をし、長崎経由で入ってきた交易のあるオランダからの書物を見てみると、キリスト教を絶賛したり入信を勧めているものはほとんどないことがわかった。しかも、医学書や天文書など、実用的な知識や技術について書かれたものもあり、学者の間で解禁を求める声も上がり始めた。徂徠も同じ考えで、しかもキリスト教そのものを知るために教義の書かれた書物まで含めて学者への公開、閲覧、調査研究を求めた。結局、実学の必要性をよく認識し、日ごろから世界地図を見て世界のことを知る必要があるという考えだった吉宗は洋書の輸入禁止を一部緩和することにした。許可されたのは漢文に翻訳された書物とし、キリスト教に深くかかわらない実用書(科学技術書や地誌など)であればよいことになった。ちなみに、外国語に通じる必要性も認識していた吉宗は、儒学者・青木昆陽(あおきこんよう)と本草(ほんぞう)学者・野呂元丈(のろげんじょう)にオランダ語の習得をさせることにした。これにより、江戸時代も学問技術が次第に進歩し、幕末維新に向けて大きく動き出すこととなった。

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