政談383

【荻生徂徠『政談』】383

 ●強盗の事

 夜打ち・辻斬り・追い剥ぎはすべて強盗である。昔から律には謀叛・反逆の次に強盗を大罪と定めている。なぜかというと、強盗から一揆が生じるからであり、歴代の規定は皆同じである。今の御役人は物を知らず、古今の事績に暗いため、強盗の罪科が大変重いことを理解しておらず、詮議が疎かになっている。盗賊律に、強盗の罪は主犯と共犯とを分けず、皆斬罪と定めてある。聖人の法にも、人を営利目的で殺す者は死罪以外を認めない。この類の者は、仲間がいて探索すれば江戸から田舎へ逃亡し、田舎から更に他国へ逃げて行くことから、厳しく対処しなければならない。田舎には武家が居住していないため、罪人の処罰はどうしても江戸ばかりとなってしまうのが現状である。


[語釈]●夜打ち 夜討ち。深夜に人家に侵入して金品を盗むこと。

[解説]本書も残りわずかとなり、世の中のいろいろな問題についてまとめて取り上げている。強盗についてもこの一段のみだが、己の欲望のために他人の金品を奪い、あまつさえ殺害までするのは、理由のいかんにいいわらず、また、主犯であろうと共犯、従犯であろうと等しく処罰すべきことが彼我の律に明記されている。なんの落ち度もない見知らぬ人をいきなり切り殺す辻斬りしかり。これを軽く扱えば凶悪犯は増えるばかり。社会不安は増大し、権力に対する不信、不満が高まる。行政として治安は重要な任務であり、強盗の取締りと処罰は治安の最重要課題である。同時に、強盗に走ってしまう要因の一つである貧困対策、さらに人の物を盗んだり殺傷するのは悪いことであるという教育、啓蒙活動も必要だ。

過去の出来事

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