江戸時代の書物の落書き

江戸時代の書物の落書き

安政7年、越後国頚城郡の樋口浅次郎の署名入り実用書体の手本より(『東隅随筆』551号所載)、巻末の部分。天神様や鳥、家紋などの落書きがあります。「手習いの最中で倦怠を覚えての落書きなのだろう」と東隅書生氏。現代人が授業中心に退屈で教科書に落書きをするのとまったくおなじ行為です。

同じ古本でも、最近の書物で落書きや線引き箇所のあるものは邪魔で迷惑でしかなく、古本価値も大幅に下がります。

が、不思議なもので、江戸時代の書物で江戸時代人の落書きだと、逆にありがたく感じられる。一番多いのは漢籍で、注釈などを書き入れたもの。これが学者によるものだと価値は上がる。余白に細字でびっしり書かれたものがあるとうれしくなりますね。古人の学問に対する姿勢、意欲のほども知れる。

一方、この画像のように、稀に絵の落書きも見られます。もちろん毛筆によるもの。

江戸時代の書物は、紙も印刷も当時のもの。糸は切れることが多いのでのちに補綴したものもあるので注意が必要ですが、今日び、江戸時代のものに気軽に触れられるといえばなんといっても書物。建造物は触れることはできても持ち帰ることはできないし、古民具類は用途を知らなければただのがらくただし、大きいものは置き場にも困る。

その点、書物は置き場に困らず、手の感触は古人と同じものだし、考えを知ることもできる。書物こそは古人が直接語りかけてくる貴重なものです。


古い本は汚い、死んだ人が触ったもので気味が悪い、などと毛嫌いする人が年々増加しているようですが、あくまで書物を物としかとらえることができないのでは、歴史に向き合い、理解することはできないでしょう。

古書の愉しみの一つは、古人の落書きですね。


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