政談350
【荻生徂徠『政談』】350
●大名の身上を分る事
大名の家中の取締りが悪く、知行所の騒動で家が潰れるのは当然のこと。跡目について意見が家中で割れることについてはいかがすればよいか。総じて四、五十万石・百万石に余る大名は、日本のような小国には少し過ぎたものである。古の制度と照らし合わせるに、夏(か)・殷(いん)・周の中国古代の三代の王朝における公侯の国というのは、今の日本の現米百万石、伯の国は五十万石、子男(し・だん)の国は二十五万石ぐらいに相当する。三代の時分の公侯伯子男の制度は、小国の日本にもあることで、「尾大にして掉(ふる)わず」と古語に言うのに似ている。幸い、右のような事態があれば、家を二つに分け、双方ともに御取立てあるべきである。他の苗字の家へ養子に行く必要がなくなる上に、この制度が出来れば、末子でも父の愛する子であれば、身上を二つに分けたいと願う例もいくらも起きることだろう。その願い通りに家を分けさせ、大名の家を三十万石を限度として実施したいものである。
[語釈]●公侯伯子男 この五等の禄爵の制度は『礼記』王制篇に見えている。所有する田の広さで、公爵と侯爵は一辺の長さが千里の四角形、伯爵は七十里、子爵と男爵は五十里。 ●「尾大にして掉わず」 『春秋左氏伝』昭公十一年にある話。獣の尾が大きすぎると自力では思うように振るい落とすことができないように、下の者の力が強大になると上の者の抑えがきかなくなること。
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