政談337

【荻生徂徠『政談』】337

(承前) 総じて願いというのは、定法とは少し違うようであり、また、上の思召し忘れなどを願いによって気づかせるためのものであろう。婚姻は両家からの願いによって仰せつけられるのは当然の儀である。跡目については上の思召し次第でよく、願いの必要はない。養子や分知などは願いによるのが当然である。総じて何事もすべて願い出なければ仰せつけられぬということはあってはならないことである。

 御用を仰せつけられる時、その御用に付帯して必要な物を受け取るについては、一言断れば済むことである。願いをする必要はない。また組へ定法により支給される物と、御役料などが滞った場合は、担当の御役人まで断りを申し立てて済むことで、これも願いには及ばない。また組に位より小身の者がいて、勤めに難渋している場合、頭(かしら)の申し立てで御足米(おたしまい)などを拝領させるのは、これは定法にはないことゆえ、願いが必要である。


[語釈]●足米 下級少禄の幕臣で、勤功があるか、薄給のために勤務もままならない者に対して、所属する組の頭や支配の上申により米や金を加禄した。あくまでその職にある間のみの支給。享保8年からは主要役人(町奉行など)、翌年からは下級幕臣にも足高(たしだか)の制度が設けられ、在職中はその役職に相応する俸禄が支給されるようになった。但し、これもその職にある間だけで、御役御免となれば支給は停止された。なお、足高の制により、足米については厳しく制限されるようになった。

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