政談328
【荻生徂徠『政談』】328
●宗門手形の事
宗門手形に「(先祖)代々何宗」と記すのは、偽りを教唆するものである。公法が第一に厳密にすることに対して偽りをすることを教え、それを定法とするのは、わざわざ物事を分かりにくくすることである。今は何事につけてもこのようで、法を立てるといえば人々に偽りを教えることになり、人々に嘘偽りが多いのは、つまりお上がそのようにさせているのである。
さりながら、切支丹宗門改めについては、僅か百年前に始めたことで、宗門手形に「代々何宗」と記すのもその時分に立てた法である。その当時は武家は皆知行所に居住し、家来も譜代が多かった。譜代でない者も皆知行所の者だったから、「代々何宗」は偽りではない。
[語釈]●宗門手形 寺請制度に基づいて檀那寺が檀徒に対して発行する文書。当初は仏教徒であることを証明するために用いられたが、のちには民衆の移動・旅行・就業に際して提出を要求される一種の身分証明書となった。寺請証文。寺証文。宗旨手形。
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