政談323

【荻生徂徠『政談』】323

(承前) 生活に困窮して御奉公もままならぬ人は、その人の頭(かしら)や支配役が世話をする情が深ければ、いかようにもできることである。生まれつき精神状態がよくない人も、頭が面倒を見て、家が潰れないようにしてやるのは当然である。太って動くのが大儀な人は、そういう人でも勤まる役があるはず。今は家格がすべてに優先しているため、他の役に就きたくてもできず、病気と偽るしかない状態である。


[解説]現代とは比較にならないほど当時の食べ物は栄養が貧弱で、菓子や飲料水など間食もほとんど摂らなかったから、当時の人の体格は現代人よりうんと小さく、細かった。しかし、それでも肥満の人はおり、たらふく食べているわけではないのになぜ太っているのか、理由が分からず、さりとて食べることを制限することもできないし、ダイエットなどとんでもない。そのため、動くのも億劫で、ゴロゴロしていることが多かったが、これがはた目には「怠けている」と映り、「陰でたらふく飲み食いしているのだろう」と白い目で見られた。徂徠はそういったことも理解しており、自分ではどうにもならない体型、体質のために仕事もできないのではますます生活に困るからと、そういう人にも勤まる仕事を管理職が責任もって探してあてがうことを説く。徂徠は個性を尊重している点でも先進的であったが、これも当時の一般的な考えからすれば理解されず、太って苦しいならとにかく痩せるよう動け、精神がたるんでいる証拠だ、と表面的なことしか見ず、精神主義に持って行ってしまう。この考えは今も支配的であることはいろいろな組織でのパワハラ問題でもわかる通り。

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