政談309

【荻生徂徠『政談』】309

 ●御触(おふれ)の廻状早速行き届かざる事

 御触の廻状、今は翌日の昼頃になっても行き渡らない。明日総出仕という時、翌日に出仕はしても廻状はまだ行き渡らない状況だ。また鳴物停止(なりものちょうじ)などの御触も、一方では承知して物音を立てないが、一方では乱舞や琴三味線を鳴らす家もある。公儀の事には大様であると褒める人もいるが、国家の御触には急を要することもあり、大様では済まされない。しかし、今は屋敷割りが悪いため、このような不行き届きも生じる。異国の法では、五千・一万の軍勢へも号令が即座に行き渡らせるために、いずれもその頭(かしら)から各組の支配へ触れ、さらに異国の組の割り方は、頭の中に頭があり、支配の中に支配があり、階級が七、八段もあるのにかくのごとく迅速なのは、その組その支配を一纏めにしておくからである。今も一組を一町に置いたならば、御触が即座に行き渡らないことはないであろう。


[語釈]●鳴物停止 皇族や幕府の要人が亡くなると、一定期間歌舞音曲を停止(禁止)すること。庶民に対しては比較的短く、武家に対してはそれより長く(重く)定めた。鳴物無用ともいう。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。