政談288
【荻生徂徠『政談』】288
(承前) へたな医者は軽い薬を出して、これ自体は害にならないとはいえ、薬はすべて偏った作用があるために、軽い薬でも常用して積もれば害となる。重い薬にあたるのは、それが強い副作用があることを知って用いることから、害は少ない。軽い薬には副作用があることを知らないために、却って害となることが多い。薬を飲むことが癖になり、これは薬だから害はないと思い込むのは誤った考えである。人々が仕事が多いのを好むようになり、医者も毎日薬を出して仕事がなくならないのを喜び、上たる人に投薬を勧め、世の中を薬漬けにしてしまった。今の人は心身が弱く、大名ほど弱々しいのは、世間の風潮および医者がそのようにしたのである。医者も平生このようにして、肝心な時には逃げるのを第一とする。このように、誰も彼も仕事に打ち込み、責任を持つことをしなくなった。
[解説]健康にいいからといって、特定のサプリばかり何年も常用するのは根本的にまちがっている。しかし、サプリのCMでは「愛飲歴5年」などと表示。新発売とともに宣伝を始めたはずで、何年も前から常用していることは解せない。実験台となって服用を続けたということも考えられるが、それが本当としても、あくまでサプリは補助的に一定期間だけ服用すべきで、それに頼らないとだめというなら、それは食生活そのものがおかしいか、飲まずにはいられない不安心理状態に置かれてしまったのである。つい漫然と飲み続けてしまう薬として、睡眠導入剤と精神安定剤がある。最近は、これらもサプリが出ているが、これこそ習慣化してしまうもので、確たる症状があり、医師の指導を受けているならまだしも、医者もいいかげんで漫然と出し続けていると、患者はシロウトだから、それに頼ってしまう。ある程度服用したら、断薬に向けて調整を始める必要がある。徂徠の当時でも薬に頼り薬漬けになることの恐さは分かっていたようで、効き目が薄い軽い薬なら、本人もこれで気持ちが楽になるのならいいだろう、ということで出し続ける医者が少なくなかった。うどん粉を丸めたまったく薬効のないものでも、患者に信じ込ませることができ、気持ちが楽になる効果があると言われるが、この手が使えるのも患者や病状によりけり。良い医者なら、薬に頼らずともやっていけるようにするものだし、極力服用期間を抑えるようにする。まだ完全ではないからもう少し続けてみよう、と言いながら二年、三年も続くのはおかしい。ましてや、シロウトが勝手に服用するサプリはいつどんなことになるか全くわからない。数種類も服用するに至っては、どんな相乗効果が出るかもわからない。このように薬に頼り、薬さえ出しておけばあとは本人次第という無責任な態度が役人世界の影響であり、なにか起きても保身のために逃げることばかり考えるとする。現代にも完全に通じることである。
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