政談281
【荻生徂徠『政談』】281
(承前) 旗本の面々も、ただ御老中や若年寄のもとで務めをし、ちょっと面談する程度では心配でならず、その家中に伝手(つて)を求めて奥向きに取り入って親しくしようとする。たびたび参る人を奥向きから取り成すようになると、知らず知らず依怙贔屓となる。
旗本の面々は番頭(ばんがしら)から地位が離れ、御老中や若年寄からは一段と遠く、御上とはますます遠く隔絶しているために、下の者の人情としては、仲間・同輩と親しくなるものである。御老中や若年寄、番頭の権勢は強く、たまたま申し上げても取り上げてはくれず、何事も一方的に上からの指図で使われ、自分の才智を発揮する事がないため、武家としての氣は薄れて覇気もなく、受け身の姿勢をして、現在では下の者は下の者同士で固まり、勇を鼓して行動するといった武家の心が失せて横着になってしまった。
[解説]上の者が絶えず指示命令をし、下の者はそれに唯々諾々と従えばよい――上の者はとかくこのように考えがちだが、それではその組織は指示をする者の才覚・器量の範囲でしか動かず、成長・発展もしない。立場こそ下であっても、労働者の中にどれほど優れた者がいるかわからないのだから、上の者はそういう人材を見つけやすくする姿勢が重要、と徂徠は説く。それには、常に下の者が自分の考えを言いやすくすることが必要で、上たる者はただ威張っていればいいというものではない。そのため、家柄や門地門閥に関係なく、優れた人物はどんどん登用すべきという徂徠の最大の主張が繰り返し述べられるのである。
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