政談274
【荻生徂徠『政談』】274
(承前) 但し、大将自身の器量の大きさによって、その器を使うのに好き好きがある。例えば、医者に石膏・大黄(だいおう)・巴豆(はず)・附子(ぶし)などをよく使う人があり、陳皮(ちんぴ)・香附子(こうぶし)ばかりを使う人もある。石膏・大黄・巴豆・附子などをよく使う医者でなければ勝れた療治はできない。このため、名将は一癖ある者を好む。下手な医者は陳皮・香附子ばかり使うのは、薬による中毒を気遣うためである。昔、泛駕(ほうが)の馬を賢者に例えたが、走り出す時にその勢いで車が跳ね返るほどの馬でなければ勝れた馬ではないということに例えて、癖のある人を探し出すのは才智の勝れた人を探し出すためであるとしたのである。
[語釈]●大黄 たで科の多年生植物。その根茎は健胃剤・止瀉薬として使う。 ●巴豆 たかとうだい科の常緑小喬木。種子の油は猛毒で、下剤に使う。 ●附子 とりかぶつの根を乾燥させた毒薬。 ●陳皮 ミカンの皮を乾燥させたもので、鎮咳・発汗・健胃剤として使う。 ●香附子 はますげの地下茎を乾燥させたもので、通経薬。
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