政談257

【荻生徂徠『政談』】257

(承前) 今はこのような世の中ゆえ、誰も自分の才智を出そうとしない。だから才智ある人は才智を出そうとしないし、才智のない人は才智を身に着けようがない。このため、人の選び方は、ただ利口に立ち回り、上の人の気に障らないようにものを言い、何事も何事も念を入れて上に伺う人を、どのような役目もそつなく勤める人だと評価する。こうなると、下の人は何事も上に依存し、自分から踏み込んでやろうということがなくなる。才智ある人は才智を出す場がなく、ただ上の人に気に入られ、気持ちに叶うよう才智を廻らすしかない。仕事を仕損じないように仕損じないようにしようと、ひたすら用心ばかりするようになる。

 聖人でさえ過ちはあるのだから、過失は誰にもあること。悪事は上からの押さえがなくてもしてはならない。上の押さえがないのをよいことに悪事をするような人を召し抱えていたとしても、そんな人はどんな役に立つというのか。このような人はしょせん悪事をしでかし、家を潰して当然である。役に立たぬ人が知行を食いつぶしているら、そういう人は排除してよい人を取り立てることが、賞罰の道にも叶うのである。


[解説]いくら優秀な役人を揃えても、それを使う立場の行政のトップや幹部が乱行に明け暮れ、少しでも異を唱えるなど気分を害する言動があれば降格や左遷など処分をするとなれば、優秀な人は才智よりも顔色を窺い、事なかれ主義で言われたことだけやるようになる。これでは才覚は無用となり、才覚のない者のほうが出世しやすくなる。これほど国家国民に対して仇をなすこともない。


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