政談243
【荻生徂徠『政談』】243
(承前) また、一知半解な料簡の人は、「御徒・与力に金を出してなり、旗本に金を出してなる人も、たとえ下賤の身であっても才智があるならば問題はない」と言うが、これも心得違いである。そもそも今の金さえ出せばどうにでもなるという風潮はとても悪い風潮である。しかも小普請手代・代官手代・町人などは百姓と違い、利欲にかけては極めて賢く、はかりごとによって物を取ることに慣れて恥を知らぬ又者であるから、武士は大いに忌むべきことである。その頭(かしら)の料簡で、下賤な者でも御用に役立つ者をよく吟味して御徒・与力に挙用する分には何ら問題はないし、右のような悪者を見逃すこともない。
このような悪風潮が起こったのは、役人の選任は才能ではなく、一つには家柄、もう一つはその場をうまく取り繕う悪賢い才智のある者のほうが役人に向いているという考えが旗本や御徒・与力を支配する頭たちに広まり、自分の組を治めるということも夢にも知らぬ状態。組の者たちには好きに暮らさせて、自分の暮らしに困ったら金を取って養子をもらい、また金を取って代番を出し、そういう風潮を生半可な料簡で「彼らも暮らしが立ち行かないのだから、こうでもしてやるしかあるまい」と言って見て見ぬふりをし、御徒・与力などは軽輩なのだからこれが当然と思うようになってしまった。
[語釈]●又者 またもの。家来の家来。又家来。陪臣。
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