政談226
【荻生徂徠『政談』】226
●使番の事
使番(つかいばん)という役は無用である。これは軍中の使番をそのまま存続させたもので、治世には無用である。軍中の使番は武勇に優れて先陣の経験が豊かな人を選んで使者に立て、勝負の境を見極めさせるのが務め。治世にはこのような人はいないのだから、わざわざ選ぶ必要はない。朝廷への使者は高家の役。三家への使者は番頭(ばんがしら)の役。城の受取りや巡見などに使番が派遣されるが、これらはその都度臨時に役を立てて選べばよい。中国でも臨時の役である。火事などの使者は側役を当てるのがよい。
[語釈]●使番 江戸幕府及び諸藩の職名。古くは使役(つかいやく)とも称した。 もとは戦国時代、戦場において伝令や監察、敵軍への使者などを務めた役職。これがそのまま江戸幕府や諸藩においても継承された。若年寄の支配に属し、役料500石・役高は1,000石・布衣格・菊之間南際襖際詰。 ●巡見 巡見使。江戸幕府が諸国の大名・旗本の監視と情勢調査のために派遣した上使のこと。大きく分けると、公儀御料(天領)及び旗本知行所を監察する御料巡見使と諸藩の大名を監察する諸国巡見使があった。将軍の代替わり後には全国に派遣して、各地の民情・施政の良否を視察した。
[解説]使番は名前のとおり戦時にあってお使いをする番士のことで、平和な時にはまったく必要のない職。しかし、幕藩体制というのは建前上は常に臨戦態勢であり(そのため、武士は夜間の外出が禁じられている)、武士としては必要不可欠なものとして江戸幕府はそのままこの職を存置させた。しかし、本来の任務はまったくなく、閑職にさせることもできないため、城の受取り(受城使)や巡見使といった諸国へ派遣する役に使番を当てた。なお、その際は書院番からも任命され、二人一組となった。たまにしか必要のない職であることから、徂徠は無用であると断じた。
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