政談220
【荻生徂徠『政談』】220
(承前) もろもろの番頭(ばんがしら)や物頭(ものがしら)、船手頭(ふなてがしら)等は武備の役である。その人柄は、昔の名将にもいろいろな人柄があったのだから、一概に決めることはできない。自分の組をよくまとめ、よく使いこなせることが重要である。現在は操練といったことでもなければなかなかそういったことが分からず、今はただ組織全体の行儀がよいことを優先し、頭は将帥(しょうすい)、組員は衛士であることを忘れているのは以ての外である。多くの人たちの頭なのだから常に冷静でえこひいきしないのがよい。組員をよく教え仕込み、御用に役立つ人を多く育てることを心掛けなければならない。
[語釈]●番頭 大番・書院番・小姓組など、幕府の諸城や将軍の身辺警護にあたる番士の隊長。武士には役方と番方があり、番方が本来の武士らしい勤めであり、役方はいわゆるホワイトカラーで、刀は差していても知識と教養、頭脳によって人を動かし、書類を相手に仕事をする。明確な意識こそなかったものの、役方のほうが序列的には上で、一種の文民統制的な構成になっていた。頭脳にすぐれた者は役方、頭脳よりも体力、剣術や武術といった者は番方についた。頭ともなれば頭脳や事務も必要だが、番方の幹部が役方に異動するといったことはなく(逆も同様)、家柄としても代々武を重んじる家は番方を拝命するのを当然とし、誇りとしたから、番方だからといって役方に対して負い目を感じるようなことはなかった。ただ、幹部はよいものの、一般の士は番方のほうがヒマが多く、酒をくらっては暴れる、町人に絡むといったような問題をよく起こした。役方の士にはあまりこういうのは見られない。頭の下に組頭がある。若年寄の支配。 ●物頭 弓組・鉄炮組などの同心(足軽)の隊長。若年寄の支配。 ●船手頭 幕府の用船を管理・指揮する。船乗りは荒々しいため、豪傑肌の者が当てられた。若年寄の支配。
[解説]以上の三職は旗本(幕臣)から選ばれ、基本は家格によるだが、番方は外仕事が多く、隊員たちは気の荒い者が多いから、体力と統率力(威厳)が必要。このため、家格のほかに人物が重視され、この者は任に堪えないと認められれば他の者に替えたことから、特に船手頭などは異動が多くみられる。
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