政談209

【荻生徂徠『政談』】209

(承前) 幕府としての確たる法制がない状態がなんとなく続いているのは、土地を治める者が年貢を取ることが自分の務めと思い込み、世の中を治めるということは夢にも知らず、思い付きで暮らしているからである。その悪弊は、下から申し出がなければそのままにし、上たる者を下の者を押さえ込むのが当然という意識さえ持つに至っている。これだから世上のさまざまな難しい公事が絶えないのである。


[解説]徂徠はさらっと言っているが、上の者は下の者を押さえつけ、年貢を取ることが役人の務めと当然のように思い、政治の根本である「治め」をせず、場当たり的に処理・対応するのは政治ではないという批判はその通り。農民は与えられた土地で作物を作り、地頭(権力者)がそれを徴収するという習慣がはるか昔から続いており、江戸時代もその仕組みは基本的に変わらないまま受け継いでいるため、取る方も取られる方も当たり前になっており、地主でも権利者でもない役人たる武士はとにかく決められた量の年貢を納めさせることが務めのすべてと思い、農民たちが気持ちよく作業に勤しみ、作物が安定して収穫でき、風水害、旱魃、虫鳥害などがあれば手当をするといったことはなにもしない、つまり農民を人間扱いしないのでは、上に立つ者の資格はない。農業は国の根本であることは当然だが、徳川家が幕府(中央政府)として世の中をどう治めるのか、それを明確に示す法がない限り、世の中の混乱は続き、これがやがては天下動乱の再燃ともなりかねない。徂徠は徳川幕府を維持・強化させることが天下の安定に不可欠という立場だが、その幕府がただ前例を踏襲し、惰性で高圧的に庶民に対するだけがすべてではないと改めて将軍吉宗にご政道の在り方を問うている。


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