政談166

【荻生徂徠『政談』】166

(承前) いま、銭を大量に鋳造して一両につき七、八貫文(かんもん)にしたならば、金銀の数は半減するが、価値が倍加するため、元禄発行の金銀を改鋳しなければ金銀の数は元のままとなるということと同じ意味になる。金銀の正しい価値というのは、銭の価値が高くなれば金銀の価値が低下して威光が減り、銭の価値が下がれば金銀の価値が上がって威光が強くなる相対的なものだから、金銀の質のよさというのは大した意味はない。例えば、召使いが多いのを大身(たいしん)とし、少ないのを小身者と言うようなものである。ところが、「銭の数を減らせば銭の価値が高くなるのだから、金銀も連動して価値が高くなる」と言う人がいる。これも世の中のことを知らぬ人で、道理を破壊する口先だけの佞人(ねいじん)である。


[解説]銭は4貫文で1両とした。1貫文は銭1000文。1両を7、8貫文にすると、金の価値は倍加し、銭の価値が下がる。当時の貨幣は両替もできたが、基本的に金(小判。単位は両)は江戸、銀(丁銀・豆板銀。単位は匁(もんめ))は大坂を中心に西日本および北陸・東北の日本海側で流通させた。丁銀がもともと地方銀として古くから流通していたのを江戸時代も踏襲したことによる。銀は大きさが不統一でいちいち重さを量った。商家で天秤と分銅が必備だったのはこのため。


「政談」が書かれた享保年間から見て、元禄小判がいかに粗悪だったか、徂徠が猛批判した理由もわかる。享保小判は優れたものとなったが、徂徠没後はまた粗悪なものとなり、しかも大きさ・量目も小さくなった。

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